Category Archives: Technical Note

粘着係数(Adhesion)と摩擦係数(Friction)

用語

鉄道では、車輪踏面とレールとの間に作用する静止摩擦係数を特に粘着係数と呼びます。

また、列車の加速力のことを特に「けん引力」「引張力」または「トルク」などと呼びますがどれも同じ意味です。

以上の用語を踏まえて物理の教科書を紐解くと、

  • 転がっている車輪とレール(地面)との間に作用する摩擦係数は「静止摩擦係数」
  • 滑っている(空転・滑走時)に作用する摩擦係数は「動摩擦係数」
  • 動摩擦係数<静止摩擦係数

以上のことから、ひとたび車輪が空転すると一旦加速力を動摩擦の限界以下に弱めてやらないと空転が収まらないといえ、空転再粘着制御や砂撒きの必要性が確認できます。Adhesion

粘着係数について取り扱った論文

私が質点系の運動で雑な解説をするのも微妙なので詳細は専門の方の論文を参照いただくこととします。

  • 池田 正二・岡本 一雄・笹井 啓一郎 「鉄道車輌における粘着係数と摩擦係数」
    http://ci.nii.ac.jp/naid/110002357886 (Webでフルテキスト閲覧可)
  • 陳 樺 「走る基本-粘着とは何か-」
    RRR 2008.7 鉄道総合研究所 (PDFがWebで閲覧できますが、直リンクは控えます)
  • 陳 樺 ・伴 巧・石田 誠・中原 綱光「湿潤条件下の車輪とレール間の粘着係数に 影響を及ぼす因子」
    鉄道総研報告 2012.2 鉄道総合研究所 (PDFがWebで閲覧できますが、直リンクは控えます)
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BveのT車優先遅れ込めブレーキ制御

Bve5.6のブレーキ遅れ込め制御に関する備忘記録です。

近鉄1250系や大阪市交20系がMT比1:1のVVVF車として登場して31年になります。その間様々な電車にVVVF制御とほぼセットでT車遅れ込めブレーキ制御が採用されてきたため多種多様になっています。

ここでは、なんでもかんでも実物通り再現するかどうかはさておきBve5がどのような制御をしているか確認してみます。

遅れ込めとは

もともと電車のブレーキは、ブレーキ方式(電気制動、空気制動、あるいは空気制動では機械式ブレーキの構造およびブレーキシューの素材など)は異なれど原則として編成中の各車両すべて自車の減速度を自車で負担する均一ブレーキが基本でした。すなわち重い車両は重い分だけたくさんのブレーキ力を負担することになります。

これに対し、VVVF車はその特性上自車のブレーキ力以上を負担できる余裕があり、かつそうすることで回生電力を増やすことが出来るため、隣のT車とセットを組ませてT車のブレーキを弱め、M車の回生ブレーキを強めることが行われました。これがT車遅れ込め制御です。

T車優先とは

次に、T車のブレーキ力までM車が負担するといっても次の制約事項が出てきます。

  1. 鉄車輪の粘着限界を超えることはできないので、減速度を高めるときはT車にも分散させなければならない
  2. 電動機や素子容量の限界でM車の負担限界に達したら空気ブレーキ力を補う必要がある

上記2点から、一般的に次の順序でブレーキ力を分散することが一般的です。

  1. M車の電制 … 電動機・素子容量の上限まで負担させる
  2. T車の空制 … 1だけの場合、T車はブレーキが掛かっていないため粘着に余裕があるため、T車から加算
  3. M車の空制

下図で、実際にBveで性能テーブルを設定して走らせると、その通りの結果になりました。

  • 高速域やB7使用時は、電制+T車のBC圧が上昇する
  • 乗車率100%に比べ、0%のときは空制補足が少ない
  • 2M4Tと比べ、3M4Tは空制補足が少ない
  • 速度15km/h以下で電制絞り込みがかかるとT車の空制だけでは負担できずM車のBC圧も上昇する
  • 電制で100%負担可能な場合も、初込め圧30~50kPaが込められている
T車優先遅れ込め

2M4T 積車100%では高速域やB7使用時に空制補足がT車に入っていることが分かる

2M4T 空車では高速側の空制補足が早い段階で終了するほか、B7を使用した場合の空制補足も小幅になる

2M4T 空車では高速側の空制補足が早い段階で終了するほか、B7を使用した場合の空制補足も小幅になる

3M4T 空車とした場合、電制にさらに余裕ができるため高速側の空制補足はほとんどなくなる

3M4T 空車とした場合、電制にさらに余裕ができるため高速側の空制補足はほとんどなくなる

JR西(223-1000代以降)方式

類例を見かけないのでそう呼ぶことにします。

通常、M車電制→T車空制→M車空制の優先順位において、T車のBC圧の上限は、「電制が無効な場合のBC圧」とほぼ同じです。これに対し、223-1000代以降のJR西の車両ではこの上限がT車粘着限界まで拡大されているため、減速中のTc車の圧力計指針値が、停車中の指針値の1.5倍程度に上昇することがあります。

遅れ込め模式図

遅れ込め模式図

このようになっている理由を推測すると、

  1. 粘着限界 < (電制力+空制力) で滑走するため、M台車の空制使用を控える
  2. M台車の基礎ブレーキ方式は踏面片押し、T台車は踏面片押し+ディスクブレーキである
    • ディスクブレーキは熱や踏面形状の影響が少ない
    • 踏面ブレーキは踏面清掃作用がある
    • この両方が組み合わされているため、T車の基礎ブレーキを優先的に使う

上記のメリットを積極的に追求するためにはM車・T車間で停車寸前や回生ブレーキの状況に応じたきめ細かなブレーキ圧制御が必要になると考えられるため、高速運転など他社局より特殊な事情をもつ同社車両に見られる方式になっていると思われます。

なるべく座標を打たずに線路を引く

奈良線のBve5対応では、他列車が走行する線路(Track)の整備に難儀しました。

他列車を動かすためには……

  1. 1つのTrackが他列車の経路となる。決めたTrackを全区間にわたって走り続けなければならない
  2. Trackには適切な相対半径を入れておくか、座標を十分に高頻度で設定する必要がある。さもなくばドリフト走行のような見た目になる

このうち1は、Bve4からの変換でスタートしたことから深刻であり、Bve2/4で線路の構文を使って地形などを作っていたもの問題となったため解消を行いました。

次に2の対策として、高頻度で座標を打つ方式はBve5.2以前はこの方法しかなかったので競馬場線で実施したものの結果はMapファイル内が大変見づらく保守性が下がるため、奈良線ではBve5.3で追加された「相対半径」を用いることにしました。

相対半径の考え方

そもそも相対半径とは、座標空間において「自線がある半径R」の円曲線のとき、

  • 自線と平行にカーブしている状態を相対半径0
  • 座標空間で直線となっている他線の相対半径は -R

としています。下図「分岐曲線の考え方1」は片開き(右)分岐における、自線が直進側になる場合と、分岐側になる場合の構文例です。他線を直進させるには自線の半径を正負逆にして入れればよいことがわかります。これにより、Track構文で他線をカーブさせたり、直進させたりすることができるようになりました。

この考え方を「分岐曲線の考え方2」では両開き分岐に適用したもので、この場合「自線の半径」と「他線の半径」それぞれの逆数を取って加減算後にふたたび逆数を取ります。

相対半径の考え方

相対半径の考え方

緩和曲線を端折る

分岐付帯曲線や工事区間などを除き、本線のカーブには緩和曲線がついていることが普通ですが、緩和曲線は、その全長にわたって半径が変化するため、座標を打つ点を少なくするには値を丸めてやる必要があります。

奈良線では施工箇所ごとにいくつかの方法を試みましたが、もっとも合理的だった方法を紹介します。これは、櫻井氏(http://nyobo.fr.a.u-tokyo.ac.jp/)のBve2/4向け曲線計算ツールをそのまま使える点も考慮し、円曲線半径に下図「緩和曲線の代用半径」の倍率を掛けて25mごとに区切ってしまうものです。区切ってしまえば座標計算を既存ツールでできるほか、前述の相対半径で補完も可能になります。

相対半径を緩和曲線に適用するための代用半径

相対半径を緩和曲線に適用するための代用半径

なお、緩和曲線上の座標計算に関してはk40s2氏(http://gri.s60.xrea.com/)が「緩和曲線を伴う他線との間隔計算ファイル」とともに解説されています。精密さを求める方には、拙作の手法よりも優れた方法がありますのでご参照いただければと思います。


また今回、下図のように実施例を用意しました。OneDriveからダウンロード

本サンプルの線路・地面などのストラクチャはBveのアドオン作成の目的でご自由にご利用頂けます。

サンプルに盛り込んだ線路形状

サンプルに盛り込んだ線路形状

省エネ運転と消費電力の簡易計算

3200系に搭載した積算電力の簡易計算機能は、公開から2週間たった現在まで多くの方にお楽しみ頂いているところです。

エコドライブチャレンジ

何度か試された方がお気づきの通り、多少の遅れを承知のうえでダラダラ走れば消費電力は抑制できますが、それには理由があります。図1は奈良→難波間のBve上での走行をグラフ化したものです。消費電力の増加は次の4種類にまとめられます。

積算電力

図1 積算電力

  1. 発車、停車を繰り返す区間(奈良→新大宮、布施→難波)
    今回のシミュレーション方法では回生失効や軽負荷回生が起きないため回生率は実車よりやや高く35~50%程度となり、消費電力は緩やかに増えていきます。
  2. 登坂区間(西大寺→生駒)
    標高約70mの奈良盆地から150m弱の生駒まで(途中富雄川と竜田川の谷があるものの)長時間力行が必要な区間です。電力はどんどん伸びていきます。
  3. 降坂区間(生駒→瓢箪山)
    生駒トンネルの中央部が峠となり瓢箪山まで一気に標高140m分を下ります。位置エネルギーからの回生電力が勝る区間です。
  4. 通過運転区間(瓢箪山→布施)
    途中に工事に伴う速度制限があるものの高速をキープするのに力行電力が大半を占めます。

では、どうすれば消費電力は抑えられるでしょうか。これを検討するために今回の電力量簡易計算のロジックを説明します。

電力=電圧×電流

電車線電圧は1500Vなので、パンタグラフを流れている直流電流(以下、パンタ電流)がいくらか分かれば電力が計算できます。しかし、Bve5ではシミュレーションにそのような値は使われていないため、性能曲線から無理矢理算出します。図2はVVVFインバーター制御電車の力行特性図です。

図2 力行特性

図2 VVVFインバーター制御電車の力行特性

  1. V/F一定領域では誘導電動機のすべり率を一定に保って三相交流電圧を速度に比例させる制御を行うので主電動機(MM)電流は一定ながらパンタ電流は速度に比例して上昇します。従って、この終端速度を第1パラメーターにします。
  2. 次に、それ以上の速度ではパンタ電流とMM電流とを一定の比を掛けて求めることとし、この比を第2パラメーターにします。なお実際は回路損失など様々な要因が考えられますが複雑になるので考慮しません。
  3. 図は力行の場合であり、誘導電動機は電動機特性と発電機特性が非対称なので回生用に1と2のパラメーターはもう1組用意します。

図3は走行シミュレーション(図1)の結果を図2のように横軸=速度-縦軸=電流で整理したものです。

速度-電流(MM電流、パンタ電流)

図3 速度-電流(MM電流、パンタ電流)

図3より、定出力領域(40~65km/h)で力行電力はピークになります。またそれ以上の速度は特性領域で、速度が上がるほど電流も減りますが加速度も落ちるため、長時間力行して結果的に力行電力は多くなります。40km/h以下は発車に最低限必要な範囲であるため、それを除いた中高速域の加速を節制することが消費電力抑制に有効です。

回生の有効範囲

回生失効や軽負荷回生を考慮しないとしても、回生の有効範囲については注目すべき点があります。

VVVFインバーター制御電車がそれ以前の回生車(界磁チョッパ、電機子チョッパ、界磁添加励磁または界磁位相制御)よりも飛躍的に回生効率がよくなった理由は、T車のブレーキ力をM車の回生ブレーキでまかなう遅れ込め制御を併用したことですが、1M1T編成では常用最大減速度までのブレーキ力をM車の回生で負担できません。具体的には2つの理由があり、

(1) 制御器の素子容量……高速域は素子容量が不足するため回生を絞る必要がある。ただしこれは最近SiC素子の採用で解決するようです

(2) 滑走限界 …… 鉄車輪の構造上、当面解決の見込みはないらしく回生負担減速度は1M1T編成で2.85km/h/s程度が上限になっているようです

3200系は減速度3.5km/h/sのところ70%程度まで回生が負担できます。そのため、ブレーキ6~7ステップを使うと空気制動が補足されます。したがって、運転中は前をよく見てB6・B7を避けることで回生率の改善が期待できます。

考察

これまでの検討を踏まえ、図1とともに分類した区間別にエコドライブの可能性を検討します。

  1. 発車、停車を繰り返す区間では、適切な速度でノッチオフし中高速域の力行時間を減らすとともに、ブレーキはB5以下を使用することが有効となります。
  2. 登坂区間では、高い速度で力行時間を短縮することが有効となります。
  3. 降坂区間では、信号変化や駅停止位置までの距離に対し、平坦線よりも減速度が低下していることを考慮してB5以下に収めることが有効となります。
  4. 通過運転区間では、信号変化に注意して不必要な加・減速を避けることが有効となります。

結論

あまりダラダラ流すと遅れてしまうので、運転曲線がもっと立っている路線や、消費電力がより多くなる高加速車では運転方法の差が顕著に表れます。

簡易かつ雑なシミュレーションですがひきつづき楽しんで頂けると幸いです。

1回しか出てこない他列車

既にお気づきの方もいるかと思いますが、奈良線の対向列車は何種類かの編成が適当(ランダム)に選択されるようにしています。

他列車

単なるランダムなので1026系6連車は実在する本数よりたくさん出現してしまうこともあるわけですが、5802Fだけは排他になるよう特別な配慮をしています……が最初の数時間の間にダウンロードされたものは、快急で一部記述ミスがあり稀に2回出現する状態になっています。

これは乱数と四則計算で作っており、以下のファイルに定義しています。

Nara2013A4034\TrainList0a.txt

// 前段 5802Fの充当列車を決める・・・1=充当、0=他の電車にする

$DH02S1 = floor( Rand(6)/5 );   // 充当列車S1の発生確率
$DH02S2 = ( 1- $DH02S1) * floor( Rand(6)/5 );  // 充当列車S2の発生確率= (1 –充当列車S1の発生確率) × (ランダム)
$DH02R1 = ( 1- $DH02S1 – $DH02S2 ) * floor( Rand(6)/5 );
$DH02R2 = ( 1- $DH02S1 – $DH02S2 – $DH02R1 ) * floor( Rand(6)/5 );
$DH02L1 = ( 1- $DH02S1 – $DH02S2 – $DH02R1 – $DH02R2 ) * floor( Rand(6)/5 );
$DH02E1 = ( 1- $DH02S1 – $DH02S2 – $DH02R1 – $DH02R2 – $DH02L1 );

// 後段 充当列車の編成定義ファイル名を作る
// 下線部5802Fを充当する× 編成定義ファイルの末尾番号
// 5802Fを充当しない場合は、一般車をランダムに割り当てる

$Rand4031 = rand(3);
$Formation4031 = ‘CarStrs\RapidKT6Nara’+floor( $DH02R1*3 + (1-$DH02R1)*( $Rand4031 * $Rand4031 /3 ))+’.txt’;
$Rand1131 = rand(3);
$Formation1131 = ‘CarStrs\ExpKT6Nara’+floor( $DH02E1*5 + (1-$DH02E1)*( $Rand1131 * $Rand1131 /3 ) )+’.txt’;
$Rand4131 = rand(3);
$Formation4131 = ‘CarStrs\RapidKT6Nara’+floor( $DH02R2*3 + (1-$DH02R2)*( $Rand4131 * $Rand4131 /3 ))+’.txt’;
$Formation1133 = ‘CarStrs\NExpKT6Nara4.txt’;

// 編成定義ファイルを他列車に設定する
Train.Add(‘Train4031’, $Formation4031 );
Train[‘Train4031’].SetTrack(1, -1);
(以下略)

こういうことをする気になったのも、素晴らしいシリーズ21や5802Fを作って頂いたばんてつ氏のおかげだと思っています。